卒業生から先生方への「感謝のプレゼントー5つのタイプ−」
もう5年ほど前になります。卒業を間近にした3月、卒業生たちが教務室に来て、「感謝のプレゼント」をしたことがありました。そのプレゼントが変わっていて、次の5つのプレゼントから選択するのです。
- 感謝の言葉…これまでに教えてくれたことについての感謝の言葉を言ってくれます。
- 校歌など歌を歌う…歌ってほしい歌をリクエストすると歌ってくれます。
- 折り紙でつくった動物…ツルやカエルなど折り紙でつくった動物を1つプレゼント。
- お手伝い…荷物を運ぶなどしてほしいお手伝いをしてくれます。
- 肩もみ…3分間、肩をもんでくれます。
私は、はじめ「肩もみだ!」と思いましたが、思い直して「感謝の言葉」に変えました。その子は、「書写の授業がとてもわかりやすかったこと。おかげで、字がとても上手になったこと。」などを話し、「ありがとうございました。」と締めくくりました。
ある先生は、卒業生に肩を揉んでもらっていました。気持ちよさそうにしていました。
別のある先生は、歌を歌ってもらっていました。興味津々に聴き入っていました……。
この事例で何が言いたいか。それは、「好みは人それぞれ」ということです。相手が何を好み、どうされたら心地よく感じるかは、違うということです。もっと言えば、感謝の言葉を言って欲しいのに、折り紙でつくった動物をもらっても、さほどうれしくないということです。
■どうして、親の愛が子どもに伝わらないか
「子どもを愛している」という親は、ほとんどだと思います。
がしかし、なかなかその愛は、子どもに「愛」として伝わりません。なぜでしょう。ひと言で言えば、子どもが求める形で、親の愛が表現されていないからです。
先の例「感謝のプレゼント」の例で言えば、「感謝の言葉やほめ言葉」なんかよりも、「肩もみ」をしてほしいのに、親の思い込みーわが子はこれを好むだろうーで、一番欲している「肩もみ」ではなくて、「感謝の言葉やほめ言葉」がくるということなのです。
タイプ別子どもに伝わる5つの愛し方
■どうしたら、親の愛が子どもに伝わるか
Gary Chapman著「The Five Love Languages」によれば、子どもによって求める愛の形―「愛の言語」―が違うからです。
Gary Chapman氏は、「5つの愛の言語」を紹介しています。
次の5つです。
①肯定的な言葉 ②クオリティ・タイム ③贈り物 ④サービス行為 ⑤身体的なタッチ
以下、この「5つの愛の言語」を私なりの解釈・具体例をあげて紹介します。
1 肯定的な言葉:感謝する言葉、ほめる言葉、励ます言葉、あたたかい言葉…です。
たとえば、
・「お風呂掃除をしてくれてありがとう。」
・「漢字テスト合格!すごいわ!がんばったのね。」
・「大丈夫、おまえは努力家だから、きっとできるよ。」
・「その服、すごく似合ってるね」…
2 クオリティ・タイム:相手に積極的に注目し、共に時間を過ごす…です。
たとえば、
・いっしょにゲームで遊ぶ。
・食事やデザートを食べながら会話する。
・相手の話を、関心を持ってじっくりと聞く。
・相手の好きな映画をいっしょに見て、感想を言い合う。…
3 贈り物:いわゆるプレゼントです。それは相手を喜ばせたいという思いを象徴するもの…です。
たとえば、
・帰りに子どもの好きなケーキを買って帰る。
・子どもが賞を取った、がんばったときには、子どもの好きな本を買ってあげる。
・ステキな衣服や置物があったら、プレゼントする。手作りも良い。
・趣味につながる花や捕まえた昆虫など、子どもが欲しい生き物をプレゼントする。…
4 サービス行為:相手がやってほしいと願うことを実際にやってあげること、相手のために何かをしてあげることで愛を表現すること…です。
たとえば、
・部屋の掃除をしてくれたり、おやつを作ってあげたりする。
・宿題を手伝ってくれる。
・プラモデルを作るとき、難しいところを手伝ってくれる。
・習い事の送迎をしてくれる。…
5 身体的なタッチ:「愛しているよ」と言葉で伝えるよりも、そっとハグしてくれたり肩を抱いてくれたりすることの方が愛を感じるタイプ…です。
たとえば、
・手をつないだり、ハグしたり、肩車したり、おんぶしたりする。
・いっしょにお風呂に入る。
・指相撲や柔道、ダンスなど、体をふれあう遊びをする。
・肩を揉んだり、足を揉んだりしてあげる。…
■子どもの愛の言語で、愛を伝えよう
私が初めて、このGary Chapman氏の「5つの愛の言語」という考え方にふれたとき、すぐに思い出したのが、先に紹介した、卒業生による「感謝のプレゼントー5つのタイプー」だったのです。教務室いた教師たちがそれぞれに違うリクエストをしていたことに合点がいったのです。
Gary Chapman氏によれば、この言語の違いは、愛の言語が違うタイプの人にとっては外国語で表現されていると言っていいくらい、違う愛の言語では伝わらないといいます。
たとえば、「クオリティ・タイム」を好む子どもに、たとえ「ゲームや玩具」をプレゼントしても、効果はうすいのです。そのゲームや玩具でいっしょに遊んであげて、楽しい時間を共に過ごしてはじめて「クオリティ・タイム」―愛が伝わるーとなるからです。
逆に、相手の言語を学び、その言語で愛を表現するようにすれば、ピタリと伝わるというのです。
たとえば、「サービス行為」を好む子どもに、勉強を手伝ったり、片付けを手伝ったりすれば、子どもは強く親の愛情を感じるわけです。
つまり、さきの「5つの愛の言語」のうち、子どもの好む愛の言語で、親の愛を伝えればいいのです。
■わが子の「愛の言語はどれか」
まず、大事なことは、わが子の愛の言語を決めつけないで、5つの愛の言語すべてで伝えていきましょう。
そして、子どもの反応を見定めつつ、徐々に「わが子の愛の言語はこれではないか」という仮説をもとに働きかけていけばよいと思います。
わが子の愛の言語を見つけるヒントは、「子どもなりに自分がやって欲しいと思うように、親にかかわっている」ということです。子どもが帰宅するなり、いろいろと話しかけてきたり「一緒に遊ぼう」と誘ってくるのは、クオリティ・タイムが愛の言語の可能性があります。何かと親に触ってくるのは、「身体的なタッチ」が愛の言語の可能性があります。「お父さんすごい!」とよくほめてくれるなら、「肯定的な言葉」が愛の言語の可能性があるのです。
また、愛の言語は一つではなく、バイリンガルのように二つあるケースもありますし、方言もあります。この辺りも考慮する必要があります。
■タイプを決めつけないで、いろいろな愛の言語で親の愛を伝える
親の愛の言語―たとえば「サービス行為」−がそのままわが子に当てはまるとは思わないことです。いろいろと試してみると、自分の愛の表現だと思っていた「いろいろとやってあげる(サービス行為)」よりも、「ほめたり感謝したりする(肯定的な言葉)」の方がわが子は喜ぶようだと、わかるかもしれません。
はじめから子どもの「愛の言語」にぴったりとはまることをめざすよりも、まずはいろいろな言語で愛を伝えることを学ぶことが、一番良い立ち位置のように思います。そうすれば、少なくとも「親として精一杯愛しているのに、わが子に全然伝わらない」ということはなくなるはずですから。そして、わが子の「愛の言語」がわかって、わが子に伝わりやすい形で愛を伝えられるようになったら最高ですね。
こうして、いろいろな愛の形で愛を伝えていくと、今まで気づかなかった子どもの愛に気づく場合があります。親としての自分は「肯定的な言葉」が愛の言語だったからあまり気にとめなかったけれど、わが子がよく手伝ってくれていたのは、わが子の愛の表現だったというように。
■子どもの発達段階やこれまでのかかわりも大きく左右する
もちろん、子どもが発達段階や、子どもとのこれまでのかかわり方によっても、愛の伝え方、子どもの受け取り方は違ってきます。
子どもが幼い場合には、たいていの場合、スキンシップ(身体的なタッチ)を好むでしょう。いっしょにお風呂に入ったり、抱っこやおんぶ、マッサージなどをしてあげればいいでしょう。たいていの子どもは喜びます。つまり、発達段階も考慮して「愛の言語」を考える必要があるのです。
いくら「クオリティ・タイム」を好む子どもでも、これまでいっしょに遊んだり、おしゃべりしたりしたことがない子どもと、子どもが小学校高学年以降になってから「いっしょに散歩しながらおしゃべりしよう」と言っても無理があるでしょう。つまり、これまでのその子とのかかわりの積み重ねも考慮する必要があるのです。
■夫婦間こそ使って欲しい「5つの愛の言語」という考え方
実はGary Chapman氏は、結婚カウンセラーで、夫婦間の危機をこの「5つの愛の言語」という考え方を使って、修復するのが本業なのです。つまり、「パートナーの愛の言語を学び、相手の言語で愛を伝えれば夫婦間のラブタンクは満たされ、夫婦間の愛が蘇る」というのです。
ですから、夫婦間でも使ってみることをオススメします。ちなみに、私の妻の愛の言語は「サービス行為」です。ですから、妻の手伝ってというリクエストには、できる限り応えるようにしています。最近も「これから友達と行く旅行先の情報を知りたい」というリクエストには、他の作業をすぐにやめて、ネットで本人が納得し喜ぶまで調べ・印刷して情報を提供しました。「これ運んで。」「これコピーして。」など、妻から手伝ってというリクエストがあったときには、妻への愛情表現のチャンスと心がけて、リクエストに応じています。
それから、妻がいろいろと家事をしてくれているのは、立派な私への愛情表現だと思うようにしました。というのは、私の愛の言語は、「肯定的な言葉」で、そこからすると、あまり妻の愛を感じられなかったからです。でも、妻の愛の言語は「サービス行為」だとわかってからは、妻は精一杯の愛情表現をしていると思い直しました。
おかげで、妻からの愛情表現「家事をいろいろとやってくれる」はとても良い状態です。
ただ、妻にも、もう少し私の愛の言語「肯定的な言葉」で話して欲しいとは、切望しています。たとえば、給料日には感謝の言葉をはっきりと伝えたり、もっと私の長所をほめたりしてほしいですね。
■結論「子どもの望む愛の言語で、親の愛を伝えればいい」
再度問います。どうしたら親の愛が子どもに伝わるでしょうか。
結論は、子どもの望む愛の言語で、親の愛を伝えればいいのです。
ついつい親(人)は、自分が喜ぶものを相手もそうだろうと思って、愛情表現として与えてしまうのです。いわゆる「自分の欲することをひとに施せ」という格言にしたがっているわけです。
一方で「自分の欲することを人に施すなかれ。自分と相手は、好みが違うかもしれないから。」という格言もあるのです。
いったいどちらが正しいのでしょうか。
先の格言をもう一段レベルアップして考えてみたらいかがでしょうか。つまり、「私は自分の好む、愛され方で愛されることを欲する。だから、相手にも、相手が好む愛され方で愛するようにしよう」と。
それには、子どもであれ配偶者であれ、相手への深い洞察と理解、そして相手への思いやり(相手に伝わるやり方で愛を伝えよう)が必要になるのです。 (文責 泉河潤一)