〈子どもは3歳までに一生分のかわいさを、親に振りまく。
大きくなって、親に反抗するようになっても、
親はそのときのかわいさの記憶があるから、
それに耐えられる〉といいます。
親としてぜひともそのような、かわいいわが子との宝物のような思い出をもつことを勧めます。
私の場合は、2歳のわが子との、次の宝物のような思い出があります。
★わが子との宝物のような思い出 2000年5月 301号
2000年4月、私は現職の教員のまま、2年間とある大学院で学ぶことになった。分刻みの教員生活から2年間離れて、学生生活と家族との濃いふれあいを満喫することができた。
その一つに、当時2歳の長女アキコとの宝物のような思い出がある。
妻に自由な時間をあげようと思って始めた、長女アキコと私と二人っきりのお散歩。お決まりのコースは、まずは肩車をしてのキャンパス散策である。キャンパス内に森もあったので、そこを巡るのだ。アキコの体の重みを心地よく感じながら、アキコの頭に木がぶつからないように気をつけて歩いたことを思い出す。
それから、キャンパスの周囲も一緒に歩いた。
雪解け水の流れる小川のほとりを歩いていると、魚が泳いでいた。周りには、フキノトウがたくさんあった。
今でも懐かしくかつ楽しい思い出として残っているのは、水路に草の葉を流してアキコと遊んだことである。
私「ほら、おもしろい。お船だよ。」
こう言って、水路の周りにある葉をとって水路に落とす。葉は結構な行きおいで流れていく。
それを見たアキコも、私と同じように葉をとって水路に落とす。(当時、アキコはまだ話し言葉が出ていなかった。)
こんな遊びを繰り返した。
そのうち、アマガエルを発見!
私はさっと捕まえて見せた。私の握った手の中で、アマガエルは苦しそうにもがいていた。
アキコは、「貸して。」というように、私からアマガエルを取った。そして、おもしろい玩具を得たようにそれで遊んだのだった。
ほどなくして、なんとアキコは自分でアマガエルをさっと捕まえたのだった! それも、2匹、3匹と……。
アキコの小さな手の中でもがくアマガエルたちを見て、「アキコは強い子だ!」と思ったことを思い出す。
そして、そのままお家へアマガエルを持ち帰ったのだった。
この葉落とし遊びとアマガエル捕まえ遊びは、キャンパス散策と並んで定番となった。
ある時、キャンパス散策をしていると、野外のグランドに出た。
そこには、一面にタンポポが咲いていた。
空は青空。雲一つないスカイブルー。
ぽかぽかのいい天気だ。
目の前には、真っ黄色のタンポポの花が一面に咲いている。
アキコと私は、そこに腰を下ろし、しばし見とれていた。
ふと見ると、タネというか綿毛をつけたタンポポもたくさんある。
よーし。
私「アキコ、見てごらん。」
こう言って、綿毛を吹いて、飛ばしてみせた。
春の暖かい風に乗って、綿毛は遠くまで落下傘のように飛んでいった。
それを見ていたアキコは、「おもしろそう!」と思ったに違いない。
すぐに私をまねて、タンポポをとっては綿毛を吹いて飛ばしていた。
繰り返し、繰り返し、繰り返し……。
【このイメージを描いてくれた友人のナル・フジオカさんの絵】
もう7年近くも前のことなのに、鮮やかにそのシーンを思い出すことができる。
真っ黄色のタンポポの花。アキコのふくらんだほっぺ。口をとがらせて吹いたとたん、ぱっと飛び散った綿毛。青空の中に舞うようにして飛んでいったたくさんの綿毛。心地よい暖かい春の日差し……。
この懐かしくも素晴らしい思い出は、一生の宝物として私のまぶたの奥、胸の中に収まっている。
妻にプライベートな時間をあげたつもりの私であったが、アキコと一対一の宝物のような思い出、素晴らしい瞬間をもらった私であった。