子どもから好かれ、信頼される親になりたい。
こうした願いをもっている親は、多いだろうと思う。
そのためには、どうした心がけが大切だろうか!?
★子どもに好かれ信頼される方法 2010.4.10 第712号
ー指導員Aさんに学ぶー
さて、私は小学校教員で、特別支援学級の4名の男の子を担任しています。
その4名の男の子を、私よりも10年ほど若く、ベテランの指導員(女性)の方とチームを組んで指導しています。
そのA指導員さんは、すごーく指導力のある方です。私は、そのA指導員さんの力に助けられ、日々の授業が成立していると本気で思っています。
そのA指導員さんは、子供たち4名全員に好かれ、信頼されているのです。
(そして、私にも信頼されているのです。)
そのA指導員さんは、なぜ子供たち全員に好かれ、信頼されるのでしょうか!?
3月半ばのある日の出来事を通して、その「子どもに好かれ、信頼されるコツ」といったものを、紹介します。
◆1 木の枝から釣り竿を作った指導員Aさん
3月12日(金)の朝のこと。
当時3年生のBくんは、拾った?1.5mほどの木の枝をもって登校したきた。
私「登校途中に木の枝なんか拾ってきちゃだめだろ。」(まったくしょうがないやつだなあ。)
しばらくして、ふと見ると、指導員Aさんが、木の枝の上部分にキリで穴を開けている。(※釣り糸を通す穴)なんとBくんは、釣り竿にするつもりで、家の近くで見つけた木の枝を持ってきていたのだった。釣り糸や釣り針、おもりまで持ってきていた。
指導員Aさんのおかげで、木の枝は釣り竿に変身した。
Bくんは、大喜びだ。
私「へえ、釣り竿にするつもりだったんだ。釣り糸がからまるといけないから、木の枝にきちんと巻いておくといいよ。」(そんな竿で釣れるもんか。だいたいいつ釣りに行くつもりだ。そんな暇はないぞ。←これは私の一部の心理です。もちろん、Bくんには言っていません。)
こう言っておいたのだが、Bくんは、「いいんだよ。」の一言であった。
◆2 からまった釣り糸をほぐす指導員Aさん
またしばらくすると、指導員Aさんは、一生懸命何かしている。脇には、Bくんが心配そうに見ていた。
私が心配したとおり、朝の10分ほどの間に、釣り糸がからまって大変なことになっていた。
経験した方は分かると思うが、釣り糸がからまったのを直すのは、容易でない。あきらめるか、難しい所はカットしてつなげるぐらいしか手がない。
それでも、指導員Aさんは、からまってしまった釣り糸を、一生懸命ほどいて直そうとしていた。
◆3 子どもの信頼を得るコツ
さすがに難しい。当のBくんは、いつの間にかいなくなっていた。
余りに時間がかかり、また難しそうに見えたので、
私「どうしてそんなに真剣にやってるの。」
(別に切っちゃえば。釣りなんて勉強に関係ないんだし…。)
この問いに対する指導員Aさんの返答にはびっくりした。
指導員Aさん「子どもの信頼を得る手なんだ。(からまってしまった)釣り糸を簡単に切ってしまっちゃダメなんだ。」
私(そうなんだ!)
私は、指導員Aさんが子供たちから絶大な信頼を得ている大きな理由に気づいた。
■子どもに好かれ、信頼されるコツ
子どもが本当になんとかしてほしいと思っていることを、
すぐに かつ 真剣に
対応してあげること。
■この「子どもが本当になんとかしてほしいと思っていること」の判断が難しい。
得てして親(教師)の方は、子どもがしてほしいばかりでなく、親(教師)もしてほしいことならすぐにも対応する(学習がわからない。学用品がない。塾で必要だ……など)。
しかし、今回の場合のように、子どもがしてほしいことでも、親(教師)が余りしてほしくないことだったり、親が価値を余り認めていないことだったりすると、とたんに対応がおざなりとなる。
これでは、普通の信頼しか得られないのである。
親が価値を余り認めていないことであっても、それどころか余りしてほしくないことであっても、子どもが本当になんとかしてほしいと思っていることを真剣に対応してあげること。そこに、親の打算のない愛を、子どもは感じるのだろう。
■この「すぐに かつ 真剣に」ということも大切なポイントだ!
「あとで」というのは、「あなたに対応するよりももっと大切なことがある」というメッセージとなる。
「真剣に」ということでは、自分の本当にやってほしいこと(ある意味わがまま)のために、一生懸命にやってくれている。貴重な時間と労力をさいてくれている。その姿に自分への愛を感じるわけである。
■ここまで書いてきて、子どもの頃に教わった童謡「母さんの歌」の歌詞を思い出した。
かあさんが 夜なべをして
手袋あんでくれた♪
木枯らし吹いちゃ 冷たかろうて
せっせとあんだだよ♪…
子どもに好かれ、信頼されるコツは、要するにこの歌詞に込められたかあさんの姿であり、それに気づいた子どもの姿である。
「親は自分のために貴重な時間と労力をさいてくれている(親に愛されている)と、子どもが自覚するようにすること」
これが子どもに好かれ信頼されるコツである。
実は、大抵の親は子どものために、貴重な時間と労力をさいている。
最も基本的なことで言えば、父親が一生懸命家族のために働いているのもそうだし、母親が家族のために料理を作っているのもそうである。
しかし、それは余りにも当たり前で空気のようになってしまっているから、子どもは案外それを自覚していない。
勉強することすら、「親のためにやってあげている」と考えている。
そこで、<親が価値を余り認めていないことであっても、それどころかしてほしくないことであっても、子どもが本当になんとかしてほしいと思っていることを真剣に対応してあげること>。あるいは、忙しい中でも無理してやってあげる姿を見せることが、親に愛されているという自覚を促すために大切なポイントとなる。
そうしたことの積み重ねが、親と子の信頼関係を築いていく。
そして、その信頼関係の土台があって、親の様々な働きかけが子どもに受け入れられていく。
だから、信頼関係の土台のある指導員Aさんは、子どもを動かす力をもっているし、指導力がすばらしくある。
私は、日々そこから学ぶようにしている。
*追記
・この後であるが、この日の昼休み、指導員AさんとBくんは、学校の近くの川に行き、釣り糸を垂れた。一匹も釣れなかったが、Bくんにとって一生思い出に残るかもしれない価値あるひとときだったろう。
・「すぐに」とは言っても、できないときもあるし、「待つ・がまんする」ことを学ばせることも大切だ。実際には、その子の発達段階や状況にもよるのである。
・一日経って、この記事を読み返してみるに、「子どものある意味わがままを聞いてあげることも大切だが、何でもやってあげることが愛ではないということも大切だ」ということである。子どもを愛しすぎて、ダメにするケースもたくさんあるのだ。自分(または自分の配偶者)は、どうもそういう傾向が強いと思われるならば、次の本の一読を勧める。