先日、26歳という若さでなくなった兄の27回忌を行った。兄の死は、母をはじめ恋人、友人……に大きな悲しみを残した。
長男を亡くした母の悲しみ 2010.3.31 第713号
ー白血病で若くして亡くなった兄ー
兄の27回忌
私には、兄がいた。
その兄は、26歳という若さでなくなった。急性白血病で。
その兄の27回忌を先日行った。
実母、私、妻、アキコ(小5)、クニコ(小1)の家族5人で寺に行き、27回忌を行ったのだが、終わった後、みんなで、とあるお店で昼食をとった。
ただ、お経をあげるばかりでなく、かつての兄のことを話すことが供養になると思ったので、昼食を食べながら、兄のことを妻、アキコ、クニコに話して聞かせた。
中学浪人をした兄
私「兄は、高校受験の1週間前に、十二指腸潰瘍で胃が破れて緊急手術になって、高校受験ができなくなったんだよ。」
実母「手術が終わってから、二次募集の私立高校を受験させようと思っていたら、それから約百日も入院して、それどころじゃなかったんだよ。生きるか死ぬかだったわね。」
私「特別のケースということで、その後、中学3年生を2回やったんだよ。」
アキコ・クニコ「えー!」
私「兄貴が後で言ってたんだけど、はじめは先輩ということで<Aさん>とさんづけで呼んでいたんだって。1,2ヶ月も経つと、<おいA>って言われて、まったく同じ立場になったんだって。」
アキコ・クニコ・妻(クスクスと笑う。)
私「兄貴は、おかげで友達が倍できたみたいだけど、苦労したんだよ。」
実母「でも、すごい女の子にもてたんだよ。」
私「そうなんだ。ボクなんか、弟だということで、兄貴のことをいろいろ聞かれたことが何度もある。」
アキコ・クニコ(ふーん。)
高校時代にはコンサート、演劇、弁論大会優勝……
私「歌手をめざしていて、高校時代からよくコンサートを開いていたよね。アキコみたいな女の子が、よく<キャー、キャー>言ってたんだよ。」
アキコ(……)
実母「そうだったの。」
私「あと演劇部に所属していて、主役(級?)をやって、後で朝ドラのヒロインになった演劇部後輩のHさんから花束をもらったと自慢してたよね。」
実母「校内弁論大会にも優勝したんだて。」
私「テープに残ってるよね。それがうまいんだ!クニコはこの間、始業式でスピーチするのをびびってたけど、お父さんもそういうの苦手だったんだ。でも、兄貴はボクと違って、コンサートとか、スピーチとかそういうのが平気というか得意だったんだよ。」
アキコ・クニコ・妻(ふーん)
私「高校の応援団長は、その当時は選挙で選ばれていたんだよ。兄貴の友人で、ずっとずっと応援団長をやりたがっていた人がいたんだよ。そして、兄貴が応援演説をしたら応援団長に当選したんだよ。兄貴の話だと、大学に入学してその友人のところに泊まったら、自分は床の上に寝て、兄貴をベットに寝せていたそうだよ。それぐらい兄貴の応援演説に感謝していたみたいだよ。」
実母「そんなこともあったんだ。」
歌手をめざした大学時代
私「兄貴は、高校・大学と本気で歌手をめざしていたんだよ。アキコと同じで歌手になりたかったんだ。」
アキコ(身を乗り出して聞く)
実母「そうだったの。」
私「当時、スター誕生という番組があって、番組の中で本当にスターが誕生したんだよ。兄貴は、1次テストパス、2次テストパスして50人ぐらいに残ったんだって。<歌はうまかったけど、顔が悪かったから3次テストに落っこちた>とか言ってたよ。」
アキコ・クニコ・妻(クスクス笑う。)
実母「大学時代は、セミプロだよ。布施明の前座を務めたとか言って、そのときのポスターを見せてくれたよ。」
私「そういうこともあったんだ! 大学4年の時、わざと単位を落として留年して、その1年で歌手の道にかけたんだよね。何でも400名ぐらいも集めたコンサートを成功させたそうだよ。」
実母「自分で作詞・作曲するのが得意だったよ。」……
歌手の道を諦め、地元に帰ってきた兄
私「兄貴は、地元に帰ってきて、S新聞社につとめたよね。」
実母「いきいきしてたて。自分の性に合ってるて言って。」
私「彼女もいたんだよ。結婚しようっていう程の仲の。」
実母「そうだったの。」
私「ところが、兄貴が急に白血病になったんだよ。後、半年の命だって。兄貴はそれも知らないで、<彼女と結婚したいって>お父さんに言ってたよね。父は、白血病のことを知った後だったから、許さなかったよね。彼女にも、真実を告げると、離れられなくなるから、彼女にも言わなかった。」
実母(……)
アキコ・クニコ・妻(……)
私「彼女も本気で兄貴と結婚したかったようで、しきりに自分が信じている宗教S会に誘ってたんだ。兄貴は兄貴で彼女を本気で好きだけど、S会は嫌いで、何とかして彼女をS会から切り離そうとしていた。彼女は彼女で、兄貴をとるか宗教をとるかですごく悩んだみたいだよ。でも、結局、同じ宗教を信じる人じゃないとダメだと考えたようで、泣く泣く身を引いたんだよ。そんなとき、兄貴は亡くなったんだ。」
実母「それで、彼女は号泣したんだね。」
こんな感じで、昼食を食べながら、兄貴のことを、妻やアキコ、クニコに話した。供養になると思ったし、同じ血を引く兄貴のことを知ってほしかったから。
事実は小説よりも奇なり
「事実は小説よりも奇なり」というが、受験1週間前に緊急手術・約百日に及ぶ入院生活、中学浪人、歌手をめざしてセミプロまでいったこと、白血病で半年の命であると彼女に伝えるべきか否かの親としての選択、宗教をとるか恋人をとるかの葛藤……これだけでドラマが何本も書けそうである。
実母は、「お兄ちゃんが白血病になったのは、十二指腸潰瘍の後で、何回も何回もレントゲンを撮ったからだよ。」と言った。
実母は、最後の最後まで兄貴に白血病だということは教えなかった。
そして、精一杯兄貴(わが子)に尽くした。
死ぬ直前に兄貴が書いたノートには、
「自分を一番愛してくれたのは、母だった。」
と書いてあった。
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*今にふり返ってみると、実母は、
「第一志望校を受験できずに第二志望校か!無念!」
どころか「中学浪人!」
さらにそれどころか、「息子がこの世からいなくなってしまうかもしれない恐怖」(兄は死線を彷徨った)を味わった。
私が進学校に進んだ高一時代。人間関係ですごく悩み、成績もガクンと落ちた。
母「別に偉くならなくたっていいんだよ。おまえはそのままでいいんだよ。」
そんな状況でこう言われたこととき、ボクはすごく気が楽になったが、こんな修羅場をくぐり抜けてきた母の本心だったのだ。(学力・受験・学歴よりも、生きていること・存在自体に価値がある)
*兄貴が白血病であと半年の命だとわかった直後、兄貴が「彼女と結婚したい。」と父に告げた。
父と母は悩んだ。
父「あと半年の命だとわかっていて、将来のある娘さんと結婚させるわけにはいかない。」
父がそう言ったのを思い出す。
そして、兄が亡くなった後、号泣した彼女の姿も。