今、教育界を見渡すにアウトソーシング(人任せ)全盛である。
専門家に任せた方が、確かに子どもは伸びるし、確実だ。
第一、親には子どもを指導している時間があまりない。
一方で、それが親が子どもとふれあう機会、教える機会を奪っていることも確かだ。
「お父(母)さんって、すごい。」「お父(母)さんのおかげで○○ができるようになった。「お父(母)さん、ありがとう。」
親と子のこのような機会を奪っているのである。
専門家へのアウトソーシングで、成果というおいしいところばかりいただくというやり方の落とし穴がここにある。
★わが子がクロールと背泳25mを泳いだ日!(2008.1.14 )
ー○塾、△教室と何でもアウトソーシングする功罪-
◆1 温水プールへ
1月13日(日)午後のことである。
私「アキコ(小3、9歳)、クニコ(年中、5歳)。もう少ししたら、お父さんと一緒に温水プールに行こう。」
アキコ「いいよ。」
妻「クニコは無理じゃないかしら。風邪が治ったばかりだから。」
私「やっぱり無理か。しょうがない、アキコとお父さんだけで行くか。」
アキコ「うん。」
結局、妻とクニコは市立図書館へ、私とアキコは市民プール(温水)に行くことになった。
◆2 アキコに、けのび・クロールを教える
簡単な準備運動をした後、さっそく入水。温水プールだから、思いのほか暖かい。
二人で自由に泳いだ。けのび・バタ足をしたり、そのままクロールで泳いだり、何度か水中走り競争もした。
途中で採暖室で暖を取りつつ少し休憩した。
アキコ「アキコ、クロール最高泳いだのは、13mなんだよ。」
私「そうか、13mの壁だな。そこをクリアーするには、相当泳ぎ込まないとダメなんだよ。」
アキコは、スイミングに通ってはいないが、親友がスイミングに通っている関係で、昨年夏期集中コースだけは参加していて、息継ぎをしたクロールはできるようになっていた。そこでの最高記録が13mなのである。
私はといえば、水泳は中学時代に熱中した卓球についで得意なスポーツである。
大学時代の水泳の集中授業。何を間違えたか、一番上級グループに配属され、周りはみんな体育科というメンバーの中で徹底してしごかれたから。
自分がクロール・平泳ぎ・背泳・バタフライ・横泳ぎと一通り泳げるのはもちろん、水泳クラブを担当していたこともあり、指導には少しばかり自信があった。
「よし、遊んでばかりいないで、アキコに泳ぎを教えるか。けのびができているなら、指導は簡単だ。」
クロールの場合、けのびができるようにさせるまでが難しく、そこができるなら後は比較的簡単だ。しかも、息継ぎも一応できるようになっていたので、あとは手で水を逃がさないようにしっかりとかくことを教えた。
水中でチェック。まだ、水の押さえが弱い。水を逃がしてしまっている。
私「アキコ、しっかり水を逃がさないようにかかなきゃ。こうやって。」(やってみせる)
アキコ「うん。」
以前は、「額で水を切るようにして。そうすると、スクリューのバタ足が水中にうまく入ってよく進むから。」などと教えたりしていたのだが、けのびを含めて既にうまくできていた。
「こんな感じだと、あとは体力的なものだな。挑戦してみるか。」こう思って、
私「アキコ、25m挑戦してみなよ。」と言った。
アキコ「わかった。」
私は、少し後からゆっくりと平泳ぎで泳いで付いていった。
「10m、15m、20m、25m!」
アキコは、あっという間にクリアーしてしまった!
私「アキコ、やったな!」
アキコ「うん!」
私「あと、アキコ、指と指の間は閉じた方がいいよ。水が逃げているよ。」
アキコ「(指の間を閉じて)こんなふうに。」
私「そう。」
◆3 アキコに背泳を教える
さて、今度は背泳だ。
背泳について、アキコはまだ学校等で教わったことがなかった。
背泳の場合、顔を水に直接つけなくともでき、呼吸も楽なので、背泳から指導するケースもあるくらいである。クロールが既にできるので、簡単にできるようになるはずだ。
それに以前に背浮きをして、そのままバタ足することは教えていた。
そこで、小指から水にいれること、肩のローリングを効かせること、腰の辺りで腕(手のひらも)を返してプッシュすることなどを一緒にやりながら教えた。
アキコ「背泳も25mに挑戦してみる。」
私「えっ、教わったばかりだろ。」
挑戦するアキコ。私は平泳ぎで脇に付いて泳ぎ、「あと15m、10m、5m…」と声がけをしていた。
何と、一発で25mを泳ぎ切ってしまった!
私「アキコ、すごいな!」(運動能力はやっぱりアキコは高いな。)
アキコ「うん、できた!」
嬉しそうな表情のアキコであった。
ここまで、途中のウオータースライダーなどの遊びも含めて正味1時間である。
この後、少しだけ自由に泳ぎ、プールを後にした。
◆4 成果を報告するアキコ
帰宅後、アキコは妻にさっそく報告した。
アキコ「ねえ、アキコ。クロールで25m泳げたんだよ。」
妻「へえー、25mも泳げるようになったの。すごいわね。」
アキコ「背泳も25m泳げたんだよ!」
私「アキコ、すごいよ。習ったばかりなのに。」
妻「アキコは、スポーツすごいね。」
アキコ「お父さんは25mクロールで息継ぎしないで泳いでたよ!」
嬉しそうに報告し、ほめられてまた嬉しそうな表情のアキコであった。
私は小学校の教員である。先に書いたように、水泳は得意であり、水泳指導にも少しばかり自信がある。
そのリソース(キャリア)をほんの僅かであるが、我が子にも活かすことができて、嬉しかった。
◆5 教える喜び
教えるという仕事を職業として選んだ私であるが、教えることにはいくつかの喜び(報酬)が伴う。
一つ目は、教えた相手ができるようになった、わかるようになったという喜びである。
今回のアキコの場合で言えば、クロールで25m泳げるようになったことであり、背泳で25m泳げるようになったことである。
二つ目は、できるようになった、わかるようになった結果として生じる子どもの笑顔・喜びである。
今回のアキコ場合、「うん、できた!」と、嬉しそうな表情をしたことである。
そんな笑顔や嬉しそうな表情を見たときは、教える仕事を選んだ醍醐味を味わうときであり、やりがいを感じるときである。
三つ目は、その結果生じる指導者に対する感謝の言葉や、指導者への信頼や尊敬の念の高まりである。
指導者としてそのような感謝の念や信頼・尊敬の念を抱かれることは、自己肯定感が高まり、とっても嬉しいことなのだ。
また、この指導者に対する感謝の言葉や、指導者への信頼や尊敬の念は、当事者である子どもからばかりでなく、子どもの成長を目の当たりにした保護者からのものも含まれる。
今回の場合、間違いなくアキコの私への信頼は増したし、妻からの信頼も増した。
四つ目は、これは職業として選んだ場合のみに当てはまるが、経済的な報酬(給料)である。
教える行為が成功したときは、教える側と教わる側にとても好ましい人間関係が生じるのである。
今、教育界を見渡すにアウトソーシング(人任せ)全盛である。
わが家にしても、エレクトーン、算盤、書道(実母が教えているが)……がそうである。
餅は餅屋ということで、専門家に任せた方が、確かに子どもは伸びるし、確実だ。
第一、親には子どもを指導している時間があまりない。
一方で、それが親が子どもとふれあう機会、教える機会を奪っていることも確かだ。
このことは、実は親子の好ましい人間関係を築く機会をも奪っているのである。
「お父(母)さんって、すごい。」(アキコに25m息継ぎなしで泳いで見せたら、アキコはびっくりしていた。)、「お父(母)さんのおかげで○○ができるようになった。お父(母)さんのおかげで□□がわかるようになった。」「お父(母)さん、ありがとう。」
親と子のこのような機会を奪っているのである。
餅は餅屋のアウトソーシングで、成果というおいしいところばかりいただくというやり方の落とし穴がここにある。
親が子に教えるという醍醐味を味わう機会、親が子に尊敬・信頼されるという好ましい親子の人間関係を築く機会を失っているのである。
できるところ、得意なところで、子どもに教えてあげ、達成感を持たせる。そして、子どもの信頼や尊敬を得る。
塾や教室へのアウトソーシングも併用しながらも、親が直接子どもを教える機会を大切にしたいものだ。