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「やりたくない!」から始まった授業──発達凸凹の子に算数を教えた45分

《読み始める前に》

あー疲れた!
教室に入るなり、小6の女の子はそう言って、机に突っ伏しました。

その日は春休み初日。
でも、算数が大の苦手なその子にとって、塾での45分は、楽しみな時間というより「しんどい時間」だったのだと思います。

ここから、どうやって学習を始めるか。
どうしたら「やりたくない」を「ちょっとやってみようかな」に変えられるか。
今回は、退職後に私が運営している、発達凸凹のある子ども専門の「ミラクル学習塾」での一コマを書いてみます。

後半では、
「勉強嫌い」
「やりたくない」
「やる気がない」
そんな子に、どう向き合えばいいのか。私なりに大切にしていることも、あわせて書いてみます。

 

発達凸凹の子ども専門の塾で

退職後、私は発達凸凹の子ども専門の学習塾をしています。
マンツーマンで行う、完全個別学習の塾です。

そこに、去年4月から通い始めたM子さんという小6の女の子がいます。
小6から特別支援学級から通常学級に転籍した子で、境界知能でもあり、算数が大の苦手です。
4月に学力をチェックしたところ、小3レベルでした。

ですから、塾ではその苦手な算数を中心に、個別に教えています。
得意な音読では、流れるように笑顔でできるのですが、苦手な算数の学習に入ると、途端に表情が暗くなり、机に突っ伏すような格好になります。

今回は、そんな子に対して、塾でどんなふうに対応しているかを書いてみようと思います。
何か一つでも、ヒントになるものがあれば嬉しいです。

まずは、学習の前に気持ちをほぐす

M子さんは、教室に入るなり、こう言いました。

あー疲れた!

椅子に腰掛けると同時に、机に突っ伏すような姿勢になりました。
前日は離任式。この日から春休みのはずなのに、出だしから妙に疲れた様子でした。
「中学校なんか、行きたくない」とも話していて、少しイライラもしていました。

塾では、できるところからスタートし、スモールステップで進めるという大原則でやっています。
それでも、もともと苦手な学習に向かうのですし、いつもは6時間目まで学校で過ごした後なので、この時間帯は疲れも出やすい。
境界知能でもあるので、そもそも理解力が高いわけでもありません。

算数を始めるとなると、よく机に突っ伏す形になります。
この日も、まさにそこからのスタートでした。

さて、どうしたものか。
私が取った対応は、まず気持ちをほぐすことでした。

「疲れているみたいだから、何か甘いものでも食べよっか。
大人向けのチョコと、ブルボンのお菓子のルマンドと、水ようかんがあるんだけど、どれがいい?」

すると彼女は少しだけ笑顔になって、
「水ようかんがいい」
と言いました。

そこで、水ようかんと番茶を用意して出しました。
彼女は喜んで食べ始めました。

3分くらいで食べ終えるかと思ったのですが、結局10分もかかりました。
私とおしゃべりしながら、フォークで水ようかんを薄くスライスしながら、少しずつ食べていたからです。

今思えば、「これを食べ終わったら、算数をしなくちゃいけなくなる」
そんな気持ちも、どこかにあったのかもしれません。

今度行く予定の伊勢神宮の話をすると、「赤福が好きだ」と言います。
それなら買ってきてあげるよ。
そんな話をしながら、まずは少しずつ気持ちをほぐしていきました。

「ここは塾なんだよね」と伝えて、算数へ向かう

もちろん、塾ですから、水ようかんを食べて終わりというわけにはいきません。
おいしそうに食べ終わった彼女に、私はこう言いました。

「ここは塾なんだよね。水ようかん食べて終わりっていうわけにはいかないんだけど、算数やってもいいかな?」

すると彼女は、
「どれくらいやるの?」
と聞いてきました。

私は、
「『ともなって変わる量』のテキスト1ページと、ドリル1ページだよ。
その後、ちょっとだけ『式の計算』の復習をするかな」
と答えました。

見通しが立つと、子どもは少し動きやすくなります。
テキストを渡して音読するよう促すと、彼女は問題文を読み始めました。

ただ、全部を一人で読ませるのではなく、テキストは私と彼女で交互に読むようにしました。
少しでも負担感を減らしながら、問題に取り組めるようにするためです。

バツをつけず、できたところに丸をつける

問題ができるたびに、私は
「おお、すごいできた。おお、すごい」
と言いながら、丸をつけました。

間違えたときも、✖️はつけません。
「違ってるよ」
とだけ伝えます。

そうすると、彼女はやり直します。
そして今度は正解する。そこで初めて、「すごい」と言って丸をつけるのです。

「全部◯。きみ、天才じゃない」
と私が言うと、彼女は半分笑いながら、
「私、バカかも」
と答えます。

これは、いつものやりとりです。

次に、テキストで学習した内容に対応するドリルを1ページやります。
ここでも同じです。間違っていた場合は、まず「そこ違ってるよ」とだけ言う。
それで気づければそれでいいし、まだわからないときは、「ここ、こうなってるでしょ」と具体的に指摘する。
必要なら、やり方も教えます。

そうすると、また正解する。
そこで丸をつけてあげる。

「ほら、ばかりだね」
「きみ、天才じゃない」
とほめると、今度は彼女は苦笑いしながら、でも少しやわらいだ顔をしていました。

やり終えるごとに、ホワイトボードの表にある学習予定にも丸がついていきます。
それもまた、「進んでいる」「できている」という実感につながります。

20分で積み上がった、小さな成功

「ほら、もう復習で終わりだ」
と声をかけて、今度は「式と計算」の復習問題を始めました。

4問だけ。
しかも、電卓も使っていいという条件です。

1問だけ間違えたのですが、そこでも同じように✖️はつけず、ヒントを出し、できたところで最後に丸をつけました。
そして、
「すごい、全部できたよね」
と言って、大いにほめて終わりました。

ここまでで20分です。
おしゃべり5分、水ようかん10分、学習20分。
そういう時間配分でした。

残り10分ほどは、好きなことをする時間にしています。
音読をするときもあるし、ピアノを弾くこともあるし、そのままおしゃべりをすることもあります。
この後、ダンス教室に通っているので、よくダンスも披露してくれます。

この日は、
「ピアノでも弾いてく?」
と聞くと、
「輪投げがやりたい」
と言うので、輪投げを始めました。

10本投げて1回のところを、2回チャレンジしていました。
うまく入ると、私も一緒になって
「おお、すごい」
と言って喜びました。

45分ほど経ったところで家に連絡を取り、お迎えに来てもらって、その日の授業は終わりです。

学習の意味を、少しずつ本人の中に育てていく

お母さんには、途中で教科書やドリルの問題を解いているところを写メして、LINEで送り、簡単に学習した内容をお伝えしています。


お母さんの願いとしては、いずれは高校受験もあるので、学年相応の、通常学級の内容をやらせたいという思いがあります。

そこで私は、
「ここがわからないと、中学の関数がわからないのです」
と書き添えました。

本人にも、学習が終わった後の雑談の中で、中学校の教科書を見せながら、
「この内容がわからないと、中学校へ行っても関数の勉強がわからないよ」
と話しています。

やはり本人にも、「高校に行きたいから、算数も頑張らないといけない」と、少しずつ自覚してもらいたいからです。
水ようかんの力も借りますが、それだけではなく、だんだんと「自分のために学ぶ」という気持ちにつながっていってほしいと思っています。

この日の授業では、結果として◯を20個ほどもらい、
「すごい、全部できたね」
「きみ、天才じゃない!」
と何度もほめられました。

輪投げでも、うまく入るとほめられる。
そして最後には、「中学の関数を理解するために必要なんだよ」と、学ぶ意味も伝えられました。

そうして彼女は、気持ちよく塾を終え、迎えに来たお父さんの車に笑顔で乗り込んでいきました。
(2026年3月26日記)

*******************

今、振り返ってみて

あの45分を振り返ると、あらためて思うのです。
子どもの「やる気がない」は、ひとくくりにはできません。

大人から見ると、同じように「動かない」「嫌がる」「机に向かわない」と見えても、その内側にある理由は、実はかなり違います。
だから、「やる気がないなら叱る」という対応一辺倒ではうまくいかないのだと思います。

必要なのは、いくつかの見立てと、それに応じた対応です。

たとえば、

よくわからない・できないから止まっている 
なら、スモールステップにして、わかるところ、できるところから始めればいい。

わかるけれど、気持ちが乗らない 
なら、興味が持てるやり方や、取り組みやすい形に工夫すればいい。

そもそも疲れていたり、元気がなかったりする 
なら、少し話をしたり、好きなお菓子を出したりして、まず心と体を整えればいい。

やる気が続かない 
なら、こまめにほめる、励ます、小さな達成感を何度も味わわせる。そういう支えが必要です。

なぜ勉強するのか意味が見えていない 
なら、この学びが先でどうつながるのか、本人の言葉でわかるように伝えていくことも大切です。

要するに、子どもを教えるときには、
「ほめるか、叱るか」
その二択だけでは、とても足りません。

ちなみに、子どもができない、わからない、やる気がしない状態のとき、
私にはそもそも「叱る」という選択肢がありません。
生産性がないからと思っているからです。
その代わりに、①から⑤のような思考をめぐらせ、立ち止まって考えます。

むしろ必要なのは、
この子はいま、なぜ止まっているのだろう
と要因を見ることです。

わからないのか。
やる気が湧かないのか。
疲れているのか。
心配事があって、それどころじゃないのか。
学ぶ意味が見えないのか…

そこをよーく見ないまま、

「やる気がない子には教えられないな」
「前にも教えたのに、まだわからないの」
「あー、また違ってる」

そんな言葉を重ねてしまったら、子どもはますます学ぶ意欲を失ってしまいます。

さらに、
やらないからできない。
できないから、ますますやりたくない。
その悪循環に入ってしまいます。

そもそも、できないこと、わからないことは、叱ることではなく、教えることです。
私はそう思っています。だから、叱るという選択肢がそもそもないのです。

「できる力があるのに、やろうとしない」

この場合だと、叱る人も多くなるかもしれません。
でも、<やる気がしない>のも、やろうとしない立派な理由と認めているので、
私は叱りません。
走る力のある自動車であっても、ガソリン(やる気)がなければ、走れないではありませんか。
それと同じで、子どもも、能力があるだけでは動けないのです。

だから私は、
どうしたらやる気を引き出すことができるか。
どうしたら始めやすくなるか。
そちらに思考を向けます。
ガソリンを入れてあげるわけです。
そのほうがずっと生産的だと思っています。

できるところから始める。
見通しを持たせる。
頻繁にほめる。
教材を工夫する。
少し雑談をする。
甘味をとってほっとさせる。
学ぶ意味を、少しずつ伝える…

そう、教えるというのは、さまざまな工夫を要する難しい仕事だと思います。
逆に、工夫の余地がたくさんある仕事だからこそ面白い!
そんなふうに思っています。
だから、退職後も、飽きることなく教えています。

さて、M子さんは、中学生になってもミラクル塾を続ける予定です。
これから先も、苦手な算数をどう教えていくか。
「わからない・できない・やる気がしない」状態から、「わかる・できる・面白い」状態に近づけていくミラクルを、
子どもと一緒につくっていきたいと思っています。


📝 自分に問いかけてみる時間

子どもが「やりたくない」「無理」と言ったとき、私はすぐに態度を正そうとしていないだろうか。
その前に、なぜその子が止まっているのか を見ようとしているだろうか。

  • この子は今、「できない」のでしょうか。それとも「やる元気がない」のでしょうか。
  • 課題が難しすぎて止まっているのか、意味が見えなくて動けないのか、私は見分けられているでしょうか。
  • 「ちゃんとやりなさい」と言う前に、始めやすくする工夫をしているでしょうか。
  • 今日この子に必要なのは、注意でしょうか。それとも安心でしょうか。
  • この子が「できた」と思える小さな成功を、私は用意できているでしょうか。そして、ほめているでしょうか。
  • 私は結果だけでなく、取り組もうとしたこと、その一歩目をちゃんと見ているでしょうか。
  • 学ぶ意味を、子どもが自分の言葉でわかるように伝えられているでしょうか。

子どもを見ているつもりで、実は「こうあるべき」という大人の基準だけで見てしまうことがあります。
だからこそ、ときどき立ち止まって、
この子はいま、なぜ止まっているのだろう
と、子どもサイドの要因をみる時間が大事なのだと思います。


📝 簡単なワーク

「やる気がない」の正体を、一度分けてみる

子どもが動けない場面に出会ったら、すぐに叱る前に、次の5つのどれに近いか考えてみます。

1. わからない・できない
→ できるところまで戻す
→ 一問だけ、一つだけにする
→ スモールステップで始める

2. わかるけれど興味が持てない
→ 問い方を変える
→ 子どもの好きなものに結びつける
→ 教材や順番を工夫する

3. そもそも疲れている・元気がない
→ 少し休む
→ おしゃべりする
→ 飲み物やおやつで気持ちをほぐす

4. やる気が続かない
→ こまめにほめる
→ 一つ終えるごとに丸をつけるなど、達成を見せる
→ 全体の見通しが見える形にする。
「これだけやればいいんだ」「あと少しで終わりだ」がんばろうと子どもは思う。

5. 学ぶ意味が見えていない
→ 今やっていることが先でどうつながるか話す
→ 本人の望みと結びつける
→ 「何のためにやるのか」を一緒に確認する

今日の関わりを一つだけ変えてみる

叱る代わりに、子どもが動けない理由に少し思いを向けてみる。
そのうえで、次のような一言に変えてみます。

「学校はどうだったの?」と、お菓子を出しながら話を聞いてみる。
「一つだけでいいから、やってみようか」と始めるハードルを下げてみる。
「やれたね、すごいね」と、その一歩を見逃さずにほめてみる。

工夫次第で、子どもの表情が変わることがあります。
その変化に出会えるからこそ、教える仕事は、やはり面白いのだと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
『パパの子育て奮戦記』では、子育てや教育の中で出会った小さな出来事を、今の視点から振り返りながら綴っています。
子どもとの関わりの中のささやかな工夫が、どこかで誰かの気持ちを少しだけ軽くしたり、温かくしたりできたら嬉しいです。

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この記事は、2026年3月26日今年度最後のミラクル学習塾での実践記録をもとに整えた再構成エディションです。

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