その大恩ある父に対して、感謝の念を抱かず、それどころか軽蔑すらしていた自分。
そんな私が、内観を通して、「父が毎日毎日遅くまで働いてくれたおかげで、僕は大学まで行け、就職もできたんだ! 父が毎日毎日40年近くも働いてくれたおかげなんだ!」と、ようやく深くお世話になったことに気づいたのです。
★父の恩に気づき涙した私 2005.10.22 第108号
今から15年ほど前、まだ独身だった頃のことです。
私は東京で内観に取り組んでいました。
◆1 内観とは?
内観というのは、「自分の内側ー心ーを観る」という意味です。
赤ちゃんから乳児、園児、小学生、中学生、高校生、大学生そして就職……と、人が生まれてから現在までの人生を順に観ていくのです。
母親、父親、配偶者、兄弟、恩師、友人、職場の上司・同僚などの周囲の人との関わりを通して観ていきます。
はじめにお母さんとの関わりを観ていきます。
観点は、決まっていて「お世話になったこと」「お返ししたこと」「迷惑をかけたこと」の3点です。
この内観は、通常、内観道場で、朝の6時頃から夜の9時頃まで1週間かけてじっくりとやるのです。
私語は一切なし。黙々と自分と向き合うのです。
1から2時間おきに、面接官が来て「この時間、誰についてどんなことを調べてくださいましたか。」と、聞きに来るのです。
そこで、「この時間は、お母さんについて、小学校4年生から6年生の頃について調べました。お世話になったことは、セーターを編んでもらったことです。お返ししたことは、よく豆腐を買いに行ったりお使いをしたことです。迷惑をかけたことは、高いお金を出して買ってもらった英会話教材をほとんど使わず無駄にしてしまったことです。」などと、報告するのです。
今回は父親がテーマなので、母親については書きませんが、初めて母親について内観したとき、お世話になったとは思っていたけれども、これほどお世話になっていたとは! と思い、心から「ありがとうございました。」と思えたことを覚えています。
◆2 父親への内観
さて、いよいよ本題です。
母親の後に父親について、お世話になったこと、お返ししたこと、迷惑をかけたことの3つの観点で、小さい頃から順に現在までを観ていきます。
父について内観する前は、「確かにお世話になったけど、そんなじゃないな。」と思っていました。
「むしろ僕がいたおかげで、お父さんは幸せだったのじゃないかな。」などという気持ちが、正直ありました。
小学校時代。まず、父にお世話になったことを調べてみました。「欲しかった卓球のラケットを買ってもらった。うれしかった!」とか「川や山、海へよく連れて行ってくれた。」など結構出てきました。
しかし、「いろいろ連れて行ってもらったけど、それは父のためでもあって、僕と一緒にいた父も楽しかったんじゃないか。」と思いました。
そこで、S面接官に「僕と一緒にいた父も楽しかったんじゃないか」とかなんとか言いました。そしたら、S面接官は
「それは内観ではなく外観です! 相手がどう思っていたかどうかは関係ありません。あなたがどう思ったかを観ていくのです!」
このように、ぴしゃりと言われてしまいました。
それから、またもう一度、父について内観してみました。そしたら、川へ魚捕りに連れて行ってもらって、やっぱり自分はうれしかったことがわかりました。
そして、忘れていたあるシーンが鮮やかに思い出されたのです。
それは12月の末。寒い雪の降る夜のことでした。
銀行員であった父が夜9時頃「帰ったれ~。」と言いながら帰宅したシーンです。
小学生だった私は、「お父さんだ!」と思い、すぐに玄関へ行きました。
そして、「お帰りなさい。」と言いながら、融けた雪でさらに重くなった黒いカバンを引きずりながら居間に運んでいました。
そのシーンが思い出された瞬間。
「そうなんだ! 父が毎日毎日、雪の日も(おそらくは体調が良くない時も)遅くまで働いてくれたおかげで、僕は大学まで行け、就職もできたんだ! 父が毎日毎日40年近くも働いてくれたおかげなんだ!」と、ようやく深くお世話になったことに気づいたのです。そのとたん、涙が溢れ出てきました。
父に対して、さして感謝の念を持たなかった自分。それどころか何かと母の味方ばかりして一緒になって父を責めたり、軽蔑したりすることすらあった自分。その父がいなければ、現在の自分はなかったのに……。
その大恩ある父に対して、感謝の念を抱かず、それどころか軽蔑すらしていた自分。
そのことに気づいたとき、涙が止まらないくらい溢れ出て、奥底から大きく変わった自分がいました。
◆3 内観後、大きく変わった父への態度
それから父への態度が180度変わりました。母の味方ばかりしていたのが、父の味方もするようになり、感謝の念で言葉遣いも自然と優しくあたたかくなりました。
退職して朝のゴミ出しなどしていた父に「ありがとう。」と伝えたり(それまでは、「僕がかせいでいるんだから当たり前、適度な運動になって健康にいいだろう」などと思っていました。)、寿司を食べに連れて行ったり、おこずかいを渡したりとお返ししようと自然に体が動きました。
実は、その父は8年前に急死しました。結納が終わり、結婚を1カ月後に控えた時期でした。しかし、内観をしていたおかげで、父に感謝しており、それまで優しく接していたので、後悔の念はありませんでした。
もし内観していなければ、相変わらず母の味方ばかりして、父をさほど大切にせず、後悔の念にさいなまれていた(後悔の念すら出なかったかもしれません)と思います。
お世話になったこと・お返ししたこと・迷惑をかけたことーこの三つの観点で、母・父について、そして人生で関わってきた人についてじっくりと観ていく内観。
このシンプルではありますが、奥の深いメソッドに出会えたこと、それによって父母に感謝でき、調和できたこと。
とりわけS面接官の一言に深く感謝しています。
*追記
アイキャッチ画像は、私と妻との結納時の両親の写真(1997年9月)です。